行政代執行が行われると、長年ゴミに埋もれていた部屋は、驚くほど短期間で元の姿を取り戻します。しかし、物理的な空間のリセットが、居住者の精神的なリセットに直結するわけではないという点に、この問題の本当の難しさがあります。多くの事例で、代執行から数ヶ月も経たないうちに、再びゴミが溜まり始めるという「再発」の現象が見られます。これは、ゴミを溜め込む行為が、単なる性格の問題ではなく、精神疾患や強いストレス、深い喪失感に対する心の防衛反応である場合が多いからです。行政代執行は、いわば外科手術のようなものです。患部を切り取れば一時的に症状は改善しますが、体質そのものを改善しなければ病気は再発します。そこで重要になるのが、福祉との強力な連携です。代執行が決定した段階から、保健師やケースワーカーが介入し、居住者の孤立を防ぐための支援体制を構築することが不可欠です。例えば、片付け後の清潔な環境を維持するためのヘルパー派遣や、デイサービスへの参加、あるいは地域コミュニティとの繋がりを再構築するためのサロン活動など、多角的なサポートが必要です。また、居住者が「すべてを奪われた」という被害者意識を持たないよう、執行の際にも「捨てた」のではなく「整理した」という感覚を持たせるような配慮が求められることもあります。一部の先進的な自治体では、行政代執行を「福祉的な介入の一環」として位置づけ、執行後の見守りを条例で義務付けている例もあります。ゴミ屋敷を物理的に消し去ることは、あくまでスタートラインに過ぎません。その後の生活において、居住者がゴミに頼らなくても自分を守れるような、安心できる社会環境をいかに提供できるか。行政代執行という強権的な手段を用いたからこそ、行政にはその後の人生に対する重い責任が生じるのです。私たちが真に目指すべきは、代執行が必要なくなるほどに、誰もが孤立することなく、互いに支え合える社会の実現に他なりません。
行政代執行という強制的なリセットとその後の生活