近年、都心のタワーマンションにおいて、高所得者層がセルフネグレクトに陥り、室内がゴミ屋敷化してしまうケースが密かに増加しています。タワーマンションのゴミ屋敷は、一般的なマンションよりもさらに清掃費用が高額になるという特殊な事情があります。まず、物流の制約です。タワーマンションはセキュリティが極めて厳重で、清掃業者が立ち入るためには事前の入念な調整が必要であり、防災センターへの届け出や専用エレベーターの使用許可など、作業開始までに多くの時間を要します。また、高層階からのゴミの搬出は、一回のエレベーター移動に時間がかかるため、通常のマンションに比べて作業効率が半分以下に落ちます。その分、スタッフの拘束時間が増え、人件費が積み上がります。さらに、タワーマンション特有の高級な内装材も費用を押し上げる要因です。大理石の床や特注の壁紙、高性能な空調システムなどがゴミによって汚染された場合、それらを洗浄して元の状態に戻すには、一般的な素材よりも遥かに専門的で高価なクリーニング技術が求められます。例えば、空調ダクト内に悪臭が入り込んでしまった場合、建物全体のシステムに影響を与えないように個別のダクト清掃が必要となり、これだけで数十万円の追加費用が発生します。また、タワーマンションという閉鎖的なコミュニティにおいては、作業自体を周囲に知られないように進めてほしいという強い要望があります。深夜や早朝の作業、ゴミを中身が見えない特殊なケースにパッキングして運ぶなどの「ステルス清掃」を依頼されることが多く、こうした特別な配慮に対してもオプション料金が発生します。ある事例では、都内の五十階建てタワーマンションの一室を清掃する際、一週間の工期と総勢二十名のスタッフを投入し、最終的な費用が五百万円を超えたこともありました。住人は外資系企業に勤めるエリートサラリーマンでしたが、過酷な労働と孤独から、気づけば自宅が足の踏み場もないゴミの山になっていたといいます。タワーマンションという華やかな生活の象徴の影で、誰にも助けを求められず、高額な清掃費用を支払うことでしか日常を取り戻せないという現実は、現代社会の歪みを象徴しているようです。ゴミ屋敷は決して低所得者層だけの問題ではなく、高度に効率化された都会の暮らしの中に、誰にでも口を開けて待っている深い陥穽なのです。