行政代執行が無事に完了し、物件が清潔になったからといって、担当職員が安堵できる時間は長くありません。本当の戦いは、執行が終わったその瞬間から始まるからです。ゴミ屋敷の最大の問題は、物理的なゴミの撤去ではなく、居住者の内面にある「溜め込み癖(ホーディング)」や、社会的な孤立という根本原因にあります。代執行によって環境を強制的に変えられた居住者は、強烈な喪失感と行政に対する不信感を抱いています。この状態で放置すれば、彼らは自分を守るために、以前にも増して激しくゴミを溜め込むようになります。これを防ぐためには、執行直後からの手厚い「伴走型支援」が不可欠です。まず、居住者が清潔になった環境に馴染めるよう、心理カウンセリングや精神科への受診を促すとともに、日々の家事をサポートする福祉サービスの導入を急ぎます。重要なのは、居住者が「自分で環境をコントロールしている」という感覚を取り戻させることです。例えば、一度にすべてを管理させるのではなく、小さなスペースから整理整頓の習慣を身につけてもらうようなプログラムが有効です。また、孤独を埋めるための代償行為としてゴミを溜めているのであれば、その孤独を別の形で埋める必要があります。地域の高齢者サロンや趣味の集まりなど、人との交流の場を丁寧に提供し、彼らが社会の中で役割を持てるように導きます。行政代執行を「強制的な片付け」で終わらせるか、「生活再建のきっかけ」にするかは、その後の福祉的アプローチの質にかかっています。最近では、ゴミ屋敷対策を環境部門ではなく福祉部門が主導する自治体も増えており、代執行を福祉的な介入の一手段として捉える考え方が主流になりつつあります。私たちは、重機が去った後の静かなリビングで、居住者が再び孤独に飲み込まれないよう、寄り添い続ける覚悟を持たなければなりません。それこそが、行政代執行という強力な権利を行使した者に課せられた、真の義務なのです。
行政代執行後の再発を防ぐための福祉的アプローチの重要性