私たちの仕事は、人が去った後の「終末」を片付けることです。その中でも、ゴミ屋敷と化した部屋での夜逃げ案件は、精神的にも肉体的にも非常にハードな作業となります。現場に足を踏み入れると、そこには住人の生活がそのままの形で、不気味に停止しています。机の上には飲みかけのコーヒーがあり、テレビのリモコンはソファの上に置かれたまま。しかし、その周りはすべて、排泄物さえ混じったゴミの海です。夜逃げをする人は、計画的に引っ越しをするわけではありません。ある日突然、心理的な限界を迎えてすべてを放り出し、暗闇に紛れて消えていくのです。そのため、貴重品や通帳、アルバムといった大切な思い出の品までが、ゴミの山の中に埋もれていることがよくあります。私たちが防護服を着用してゴミをかき分けるとき、それは単なる廃棄物の処理ではなく、一人の人間が崩壊していく過程を追体験しているような感覚に陥ります。特に夏場の現場は過酷を極めます。ゴミから発生する熱と湿気、そして強烈な腐敗臭が、狭い室内に充満し、目を開けているのさえ辛い状況になります。ゴキブリやハエが数万単位で発生していることも珍しくありません。夜逃げをした住人は、このような絶望的な環境で寝起きし、食事をしていたのです。その孤独感と精神の麻痺は、想像を絶するものがあります。作業を進めていくと、ゴミの下層からは督促状や借金の明細、そして「助けて」という消え入りそうな走り書きが見つかることもあります。ゴミ屋敷になるまで人を追い詰め、そして夜逃げという形でしか終わらせることができなかった、現代社会の冷酷な仕組みに対して、言いようのない憤りが込み上げてくることもあります。作業が終わった後の部屋は、ガランとしていて、不気味なほど静かです。つい数時間前までゴミに埋め尽くされていた場所が、何事もなかったかのように清潔な空間に戻ります。しかし、壁に染み付いた死臭や床のシミは、簡単には消えません。それは、そこで起きた悲劇の記憶が、物理的な清掃を超えて、その空間に刻み込まれているからかもしれません。
特殊清掃員が見たゴミ屋敷と夜逃げの深淵