都会の洗練された暮らしを夢見て購入した都内の高層マンション。しかし、私の平穏な日常は、隣室がゴミ屋敷化していることが発覚したあの日から一変してしまいました。ゴミ屋敷がもたらす害悪は、直接的な被害だけではなく、そこに関わるすべての人々の精神を蝕み、計算不可能なほどの「目に見えないコスト」を強いてきます。最初に異変を感じたのは、夏の暑い日に廊下を通り過ぎた際、鼻を突くような酸っぱい、それでいて何かが腐ったような不快な臭いが漂ってきたときでした。当初はゴミ出しのタイミングが遅れただけだろうと思っていましたが、その臭いは日を追うごとに強烈になり、ついには私の家の玄関や通気口を通じて、リビングにまで侵入してくるようになったのです。マンションという密閉性の高い空間において、一度発生した悪臭は壁を越え、共有部分のダクトを通じて建物全体に広がります。私は、自宅にいながら常に悪臭に晒されるという、地獄のような日々を余儀なくされました。消臭剤を大量に購入し、空気清浄機を最高出力で回し続け、窓を開けることさえできない。このときにかかった電気代や消臭グッズの費用などは、微々たるものかもしれません。しかし、自分の家でありながらリラックスできず、常に隣の「ゴミ」の存在を意識しなければならない精神的な苦痛は、お金に換算できるものではありませんでした。さらに、最も恐ろしかったのは害虫の発生です。ゴミ屋敷を拠点とするゴキブリやハエが、ドアの隙間や配管を伝って私の部屋にまで侵入してきたのです。害虫駆除業者に依頼し、数万円を支払って対策を講じましたが、元凶である隣室がそのままである以上、これは一時しのぎに過ぎませんでした。私は、毎日家の中に虫がいないか怯えながら過ごすことになり、睡眠障害を引き起こすほどに追い詰められました。マンションの管理組合に相談しても、個人情報の壁や権利問題が立ちはだかり、解決までには一年以上の時間を要しました。その間、私は何度もこのマンションを売却して引っ越すことを考えましたが、近隣にゴミ屋敷があるという事実は、物件の査定価格に大きく響きます。いわゆる「心理的瑕疵」には当たらないまでも、内覧に来た人が廊下の臭いや雰囲気を察知すれば、成約価格は相場より数百万円、あるいは一千万円単位で下落する可能性があります。ゴミ屋敷がもたらす費用とは、清掃にかかる実費だけではありません。そこに住む近隣住民が支払わされる、安らぎの喪失、健康被害、そして不動産価値の下落という、あまりにも過酷な社会的コストの積み重ねなのです。
隣室がゴミ屋敷になったマンション住民の苦悩と目に見えない精神的コスト