マンションのゴミ屋敷清掃にかかる多額の費用を目の当たりにしたとき、多くの所有者や管理組合が抱く期待が「火災保険や損害保険でカバーできないか」という点です。しかし、結論から申し上げれば、現状の多くの保険契約において、ゴミ屋敷の清掃や消臭にかかる実費がそのまま補償されるケースは極めて稀です。火災保険は、あくまで火災、落雷、爆発、水災などの「突発的な事故」によって生じた損害を補償するものであり、入居者のセルフネグレクトや不適切な生活習慣によって数年かけて形成されたゴミ屋敷は、保険用語でいうところの「汚れ、摩滅、腐食」にあたり、補償の対象外とされるのが一般的です。ただし、例外的に補償が検討されるケースもあります。それは、ゴミ屋敷を起因として「具体的な損害」が発生した場合です。例えば、ゴミの重みによって床が抜け、下の階の住戸に損害を与えた場合の「個人賠償責任保険」や、ゴミの中にあったリチウムイオン電池が発火して火災が発生した際の火災保険などです。しかし、この場合でも補償されるのは火災によって焼けた部分の修復費用であり、燃え残ったゴミの撤去費用自体は「残存物取片づけ費用」として一定割合しか認められないことが多いのです。近年では、大家向けに提供されている「孤独死・事故物件対応保険」の中には、入居者の夜逃げや孤独死に伴うゴミ屋敷清掃費用を一部カバーする特約も登場していますが、分譲マンションの個人所有者向けには、そうした保険はまだ一般的ではありません。管理組合が加入する「マンション総合保険」も、共有部分の損害をカバーするものであり、専有部分内部のゴミ屋敷問題に対する直接的な清掃費用の支払いは期待できません。したがって、ゴミ屋敷の清掃費用は、全額が自己負担となることを前提に計画を立てる必要があります。この経済的現実が、さらに解決を遅らせる原因にもなっています。清掃費用を捻出できずに放置を続け、さらに事態が悪化するという悪循環を断ち切るためには、自治体の福祉的な融資制度や、分割払いに対応してくれる専門業者の選定など、保険以外の財政的手段を模索することが、現実的な解決への第一歩となります。
火災保険や損害保険はマンションのゴミ屋敷清掃に適用されるのかという疑問