マンション内でゴミ屋敷が発生した際、管理組合がその解決のために投じるべきコストは、清掃費用だけではありません。それ以前に立ちはだかる「法的な解決」のための費用が、管理組合の財政に重くのしかかります。マンションは区分所有法という法律に基づき、各住戸の独立性が強く認められているため、たとえ管理規約に「不衛生な状態の禁止」といった条項があったとしても、管理組合が勝手に鍵を開けて中を掃除することはできません。まず必要になるのは、状況の把握と本人への勧告ですが、多くの場合、ゴミ屋敷の主は対話を拒否します。ここから、弁護士を介した法的な手続きが始まります。内容証明郵便の送付、理事会での決議、そして区分所有法第五十九条に基づく「競売請求」や「明け渡し請求」の訴訟提起です。弁護士への着手金や成功報酬、裁判所に納める印紙代などで、少なくとも五十万円から百万円程度の予備費が必要となります。さらに、裁判で勝訴したとしても、本人が自発的に片付けない限り、強制執行の手続きに移らなければなりません。強制執行には「執行官」への予納金が必要で、これがゴミ屋敷の場合、荷物の搬出と保管、処分を前提とするため、さらに百万円単位の費用が必要になることがあります。これらの費用は、最終的には当該住戸の所有者に請求することになりますが、競売にかけられたとしても、優先される抵当権などがあれば、管理組合がすべての費用を回収できる保証はありません。また、訴訟が長期化すればするほど、近隣住戸の住民からは「なぜ早く解決しないのか」という不満が募り、管理組合の運営自体が困難になるという政治的なコストも発生します。現状、ゴミ屋敷を抱えるマンション管理組合の多くが、積立金を取り崩してでも解決を急ぐのは、放置することによるマンション全体の資産価値下落や、他の住民の退去といった二次被害の方が、訴訟費用よりも遥かに大きいと判断するからです。ゴミ屋敷問題は、一度発生すれば、管理組合にとって数年がかりの紛争と、数百万円規模の財政的負担を強いる、まさにマンション運営における最大の危機といえるのです。早期発見のための巡回や、孤独死防止のネットワーク作りといった、費用のかからない予防策がいかに重要であるかを、こうした多額の代償が物語っています。
マンション管理組合が直面するゴミ屋敷対策の法的費用と強制執行のハードル