私のワンルームは、いつしかペットボトルの山に埋もれていました。仕事から帰ってきて、寝る前に飲む一本のお茶。その空のペットボトルを、ゴミ箱に捨てる、という、たったそれだけのことが、できなくなっていたのです。「明日捨てよう」。その繰り返しが、床に、テーブルに、そしてベッドの脇にまで、透明な地層を築き上げていきました。その数、自分でも分かりません。百本か、二百本か。部屋は、まるでリサイクル工場のようになっていました。転機は、アパートの更新でした。このままでは、絶対に退去できない。しかし、この膨大な量を、どうやって処理すれば良いのか。途方に暮れた私は、意を決して、不用品回収業者に連絡を取りました。見積もりに来てくれたスタッフの方は、部屋の惨状を見ても、全く動じることなく、「よくありますよ、こういうケース。大丈夫です」と、優しく声をかけてくれました。提示された費用は、約5万円。私にとっては痛い出費でしたが、もう自分ではどうすることもできない、という思いから、お願いすることにしました。作業当日、2人のスタッフが、驚くべきスピードで、ペットボトルの山を片付けていきました。まず、中身の入ったボトルを、手際よく空にしていく。次に、ラベルを剥がし、キャップを外し、本体を大きな袋に、まるで工業製品のように、次々と詰めていくのです。私が一人でやったら、何日、いや、何週間かかるか分からない作業が、わずか数時間で終わってしまいました。全てのペットボトルが運び出され、フローリングの床が、何年ぶりかに、その全面を現した時、私は、部屋の広さに、そして、そのあまりの解放感に、言葉を失いました。部屋の空気が、明らかに違うのです。軽くて、澄んでいる。5万円という費用は、この解放感と、新しい生活を始めるための「時間」を買ったのだと、私は思いました。あのペットボトルの山は、私の心の重荷そのものでした。それがなくなった今、私の心も、少しだけ軽くなったような気がします。