「これはゴミじゃない!」。ゴミ屋敷の片付けにおいて、住人がこのように激しく抵抗し、物を捨てようとすると怒り出す、という場面は、決して珍しいことではありません。家族や支援者にとっては、どう見ても不要な物、あるいはゴミにしか見えないのに、なぜ本人はあれほどまでに執着し、怒りを爆発させるのでしょうか。その背景には、単なる「頑固さ」や「わがまま」では片付けられない、複雑で根深い心理が隠されています。まず考えられるのが、「ためこみ症(ホーディング障害)」という精神疾患の可能性です。この場合、本人にとっては、一つ一つの物が、たとえ他人にはガラクタに見えても、それぞれに特別な意味や価値を持っています。それを捨てられることは、まるで自分自身の体の一部をもぎ取られたり、大切な思い出を破壊されたりするような、耐え難い苦痛と恐怖を伴います。その苦痛が、「怒り」という形で、自分を守るための防衛反応として現れるのです。また、認知症の進行によって、物への執着が強まったり、被害妄想(自分の大切な物を盗られる、捨てられる)が見られたりすることもあります。この場合、本人は「自分の財産を不当に奪おうとしている敵」として、片付けようとする人を見てしまうため、強い抵抗や攻撃的な言動に繋がります。さらに、長年の社会的孤立や喪失体験から、物に囲まれていること自体が、心の安定を保つための唯一の手段となっているケースもあります。物で埋め尽くされた空間は、彼らにとって自分を守るための「砦」であり、それを崩されることは、自らの安全が脅かされることを意味します。その不安と恐怖が、怒りとなって噴出するのです。このように、物を捨てると怒るという行動は、その人の心の痛みや不安、恐怖の表れです。その怒りの表面だけを見て「頑固な人だ」と判断するのではなく、その奥にある本人の苦しみに寄り添い、なぜ物を手放せないのか、その根本原因を理解しようと努めることが、問題解決への第一歩となります。
ゴミ屋敷の物を捨てると怒る人の心理