賃貸アパートの一室が、ゴミ屋敷になってしまった。この場合、退去時に必要となる、大掛かりなリフォーム費用は、一体、誰が負担するのでしょうか。この問題は、入居者(賃借人)と大家さん(賃貸人)の間で、最も深刻なトラブルに発展しやすい、デリケートな問題です。日本の法律と賃貸借契約の原則によれば、部屋を元の状態に戻す「原状回復」の義務は、部屋を借りていた「賃借人」にあります。通常の生活で生じる、経年劣化や自然な損耗(例えば、日光による壁紙の色褪せや、家具の設置による床の僅かなへこみなど)については、賃借人に修繕の義務はありません。しかし、ゴミ屋敷化は、明らかに、この「通常の使用」の範囲を逸脱しています。ゴミの放置によって生じた、床のシミや腐食、壁紙のカビや深刻な汚れ、そして強烈な悪臭などは、全て、賃借人の「善管注意義務(善良な管理者として、部屋を注意深く使用する義務)」に違反した結果生じた、故意または過失による損耗と見なされます。したがって、これらの損傷を修復するためのリフォーム費用は、原則として、全て賃借人が負担しなければなりません。大家さんは、まず、預かっている敷金から、リフォーム費用を差し引くことができます。しかし、ゴミ屋敷のリフォーム費用は、数十万円から、時には百万円を超えることもあり、敷金だけでは、到底まかなえないことがほとんどです。不足分については、大家さんは、賃借人本人、あるいは、その連帯保証人に対して、支払いを請求することになります。しかし、現実には、ゴミ屋敷の住人が、高額なリフォーム費用を支払える経済力を持っているケースは稀です。連帯保証人がいない場合は、事実上、費用の回収が困難になることも少なくありません。その場合、最終的に、その負担を被ることになるのは、大家さん自身です。この深刻なリスクを避けるためにも、大家さんにとっては、入居者の異変を早期に察知し、問題が深刻化する前に対処することが、何よりも重要なのです。